鑑定評価は手仕事

鑑定評価は、不動産鑑定士の価格に対する判断である。
いくらを表示すべきなのか、悩みに悩み決定する。 その際にいかに説得力のある評価書を作成できるか、裏付けになる資料の質、量、そして採用の適否が信頼性を大きく左右する。

鑑定評価は、その不動産を新たに求める原価に注目した積算価格、その不動産の収益性を基に計算される収益価格、類似の不動産が市場でどう見られているかを考える比準価格という3方式を中心に求められる。市街地では新たに造成することは不可能だから原価法は使いにくいし、賃料収入を重視しない住宅地では収益価格をあまり重用しない。ほとんどのところで参考にできるのが比準価格。回りの不動産がどのような取引をされているのか調べるのは、鑑定士の第1ステップになる。 不動産は、地球の表面を区分したものである。2つと同じものはない。住宅団地のように似たような不動産はあるが、必ずどこかが違う。似た不動産とどこが違い、どこが共通なのかをよく見て価格の落ち着くところを探すのだ。 そのためには、対象となる不動産がどのようなものであるのか、詳細に調べることになる。法務局での登記簿、公図、建物図面、実測図面等の調査は言うまでもなく、市町村役場では、都市計画、農業委員会、道路、水路の調査、小中学校はどこなのか、文化財が埋蔵されていないか、過去に地盤や地質で問題はなかったか、水道、ガス、下水の配管はどうなっているのか、等々、その不動産の過去の履歴を調べた跡、その不動産が何に利用できるのかを一つ一つつぶしていく必要がある。最近では土壌汚染であったり、周辺のマンションや工場の計画など、目に見えないものも調べる必要が出てきた。何ともややこしくなってきたが、生活の基盤であり、もっとも価値の高い財産である不動産はそれだけ注目されるものなのだ。 そうして対象不動産の状況はおよそ分かってきた。次に、その不動産が周辺の地価水準とどう違うのか、これは周辺の取引事例を調査しないと分からない。 取引された事例を調べて回る。いくらで何時取引されたかが分かったら、その取引について、先ほどの対象不動産と同様に一つ一つ調査していく。 これをしないでいたら、対象不動産との違いが分からない。比較ができなくなるのである。 役所は1カ所にまとまっているとは限らない。取引事例も1日で集まるわけではない。何回か足を運び、行きつ戻りつは調査の常である。 そのために不動産鑑定士の仕事の半分は外での調査、半分は書類を整理、分析、執筆のデスクワークになる。 最近、私の場合には、一般鑑定のとき3週間程度の期間猶予をお願いしている。 うまくいけば、1週間以内に調査を終え、原稿も3日程度で書けるかもしれないが、早々うまくいくわけではない。 急ぎでお願いしたいという人には、 「その地域の相場を示す調査報告ではいかがですか」 調査報告書の仕組みを説明することにしている。 これは取引事例との比準も行わないから、その分、調査は簡略化できる。 世間で言われる、2~3日で行いますという簡易な鑑定というのは、現実には調査報告と言うべきなのではないだろうか。 国土交通省は、3方式を適用し、適切な説明を記載していなければ鑑定評価と言ってはいけないとしている。個別の事例を調べないのであれば鑑定評価ではないはずである。たとえ、「簡易」と言っても「鑑定評価」である以上は、取引事例について裏付け資料をチェックする必要がある。 裁判所であろうが、どこに出されても説得力を持つ鑑定評価書を作る責任が不動産鑑定士にはある。士業の「士」という字には、裃を着て正座している武士を形作っているとも聞いた。いざとなれば逃げられない、最後まで説明をする責任がある。専門家というものはそういうものだろう。
鑑定評価は(有)埼玉不動産鑑定所へ

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